「あーもう」
 こっそりつぶやいて、プシューゥと開いたドアの向こうに涼子(りょうこ)を探す。
 いた、いた。
 乗ったとたんドアの近くで立ち止まる、迷惑なおばさんを押しのけて奥に進む。
 涼子は()り革につかまって、まっすぐ窓の外を見ていた。
「おっはよ」
 こっち、こっち、もう乗ったってば。
「涼子ぉ」
 気づいているはずなのに涼子が返事をしてくれない。
 いやだ。なに? どうしたの?
「――いったい、どういうつもり?」
 えっ?
「仲良くふたりで登校なんて……。いったい、どういうつもりかって聞いてるの」
 おどろいて振り向いた。
(そうだった!)
 忘れていたけど、そこにはしっかり藤島(ふじしま)がいて。
 あたしを――にらんでいた。
「ちょ…、待ってよ涼子」
 これのどこが仲良くなのよ。
 よく見てよ。
「ね。ちがうって、涼子。ね。ちょっと聞いて」
「話しかけないでっ!」
 にべもない涼子の声が車内に響きわたって。
(涼子ったら)
 思わずあたしはまわりを見回していた。
「ちょっ…、涼子。落ちついて」
 こんなところで、やめて!
 こっちを見て。
 話を聞いてよ。
 一所懸命、目でうったえるあたしを、涼子が冷たいながしめで見る。
 (ほほ)は怒りでかピンクに染まっていた。
「うそつきっ!」
 涼子!
「友だちだと思ってたのに!」
 ああ、涼子。
「お顔いだから――…」
「大っきらいっ! 明緒(あきお)なんか、大っきらい!」
「涼子っ」
 涼子が車両内の注目を一身に浴びながら、強引に移動を始めた。
 失礼も、すみませんも言わず、ぐいぐい進む娘に、ろこつに眉をひそめるおじさんだっているのに。
 あああ、もう!
 そんなまね、あたしにもしろっていうの?
 一瞬、追いかけるのを迷ったあたしを、強制的に引き止めたのは藤島。
 一歩踏み出すまえに、あたしのひじは、がっちり藤島につかまれていた。
「ほっとけ」
 だれのせいなのよ!
 キッとにらむけど。
「おまえまで、あんなみっともねえまね、すんな」
 小声でぽそっとされた忠告は、胸に痛くて。
「涼子……」
 大丈夫。
 あとでちゃんと話し合えるよね。
 自分に言い聞かせてしまった。
 ごめん。