もういちど初めからー塩キャラメルとビターチョコー

「あたしはきみが目ざわりだけど! そんなのお互いさまだろうから! やりたきゃ勝手にやれって言ってるの! いいかげん、とぼけるの、よせ!」
「全然わかんねえよ! さっきからなに言ってんだ、おまえ?」
 む、か、つ、きぃぃぃ。
「あのね! あたしが気づかなかったとでも思ってるの? しょっちゅう涼子(りょうこ)の目にとまるとこにいたくせに。涼子の気を引きたくて知らん顔してたんでしょ? さすが評判の女ったらしは、やることがちがうやねって、感心してたんだよ、あたしは」
「…………」
 藤島(ふじしま)がついに黙りこむ。
(勝った)
 天井のスビーカーから、いつもの電車の到着を告げるアナウンス。
 なんていいタイミング。
 いい?
 これで終わりだから、よく聞きなさい。
「きみとあたしは、もう友だちでもなんでもないけど! きみが涼子とつきあうんなら、せいぜいじゃまにならないように努力するから。きみも無理してあたしに話しかけてくれなくていいよ」
「…………」
 なにか言いかけて開く藤島の口から声が出てくるまえに、
「どいて!」
 柱みたいに突っ立っている藤島の肩に、パンチ1発。
 藤島がよろけたすきに列にもどる。
 電車がホームにすべりこんできた。
(はぁ……)
 言いたいことは言えたけど。
 朝からいつもとちがうことをするのが、こんなに疲れるなんて……。