くつ箱のそばで立っていたあたしを見つけて、藤島(ふじしま)の足が止まる。
 手を振って友だちを先に行かせて、藤島はあたしのほうに歩いてきた。
 別に、あんたに用じゃないよ…って言えたら、どんなにスカッとするか。
 アイツもアイツだ。
 いままで4年間も知らん顔してたくせに、来るか? こっちへ。
(女ったらし!)
 涼子を落とすためなら、なんだってするってか。
 涼子があんたを好きじゃなかったら、ぶっとばして、()り倒して、くちゃくちゃにして、ゴミ箱にポイなのに。

 床におとしていた、あたしの視線のなかに、近づいてきた藤島の足が止まる。
 あたしが顔をあげると藤島は、肩に背負ったナップサックをかつぎなおして、ジーンズのポケットに親指をつっこんだ。
「なんだよ」
「あやまりにきた」
 あたしが言うと、藤島が目を見ひらいた。
 まあ、おどろくのももっともだけど。
 いやなことはサッサとかたずけるにかぎる。
「せっかく話しかけてもらったのに、不機嫌にして悪かった。ごめん。――じゃ」
 そそくさと立ち去ろうとしたあたしは、藤島に腕をつかまれた。
「待てよ」
「もうあやまった!」
 それは、放せという意味だって。
 藤島にだってわかっているはずなのに、藤島の手はあたしの腕から離れない。
 こっちから振りはらうのもシャクにさわるから、そのまま藤島を引きずって歩きだす。
 だれかが見たら、また変なうわさになるだろうけど。
「待てよ!」
「なんでよ? 朝のことはあやまったんだから、もう関係ないでしょ?」
「なくねえよ! おれにも言わせろ」
 なにを?
 立ち止まったあたしの腕から、ほっとしたみたいに藤島の手が離れていく。
 あたしを放した藤島は、その手で自分の髪の毛をくしゃくしゃにした。
(あ……)
 よみがえったのは、いっしょに遊んでいた小学5年生の男の子。
 髪の毛なんて寝ぐせでハネまくっていて、あたしと同じような声で笑いころげていた、チビ慎吾。
「えーと。その、なん――だ…」
 言いよどむ藤島の声の低さに、ハッと我に返ると、あたしは藤島を見つめていた。
 そして、藤島があたしを……。