「ねえ。あやまるからぁ」
 前髪が(ほほ)にあたるほど近くで顔をのぞきこまれて、むずむずとどこかがゆるむ。
(はぁ……)
 こんなことで許したら、本当にレズのひとだよなぁ。
 そう思った時点であたしの負けだった。

「ぷっ」
 思わずふきだして、あとはふにゃふにゃ。笑いが止まらない。
「んもう、明緒(あきお)ってば。本気で怒ったかと思って、ドキドキしちゃったじゃない」
 涼子(りょうこ)が胸元をおさえて、おおげさにため息をつく。
 いや、本気で怒ってたんだけどね。
 もう、どうでもいいや。
 お弁当も途中だし。
「食べよ」
 涼子をうながして食事にもどる。
 卵焼きをふたつに割って口に運ぼうとしたとき、
「ねえ、明緒?」
 目の前の涼子が、いやに真面目な顔でこちらを見ているのに気がついた。
「うん?」
「だから、明緒もあやまって」
 へっ?
「だから、あたしといたかったら、明緒も藤島(ふじしま)くんにあやまって!」
「…………」
 口あんぐり状態っていうのは、このことだ。
「あやまって、ムカシのことはもう、きれいさっぱり忘れちゃってるから。あなたのことはもうなんとも思ってないし。なんの関係もないんだって。はっきりさせてきて」
 な…ん、だってえぇえ?