「そうよねえ。考えてみればそういう年頃よねえ。むかしは藤島(ふじしま)さん()慎吾(しんご)ちゃんとか、あなたけっこうボーイフレンドいたのに。このごろなんだか、あなたのほうが男の子みたいじゃない? ママ、ちょっと心配してたのよ?」
 げげ――っ。
「だれがボーイフレンドよ、だれが!」
「あら! そういう言いかたは、慎吾ちゃんに悪いでしょ? 慎吾ちゃん、幼稚園のころから、あなたをお嫁さんにするんだって言ってたのに」
「…………」
「ねえ、そういえば慎吾ちゃん、元気?」
 知るかっっ。
「たまには連れてらっしゃいよ。相変わらず親しいんでしょ、あなたたち。パパがたまに帰り道で見かけるって言ってたけど、慎吾ちゃんてば、なんだかすっごくいい男になっちゃってるんですってねえ。ゆっくりお話、してみたいわぁ」
「おやすみぃぃぃ」
「あら、ちょっと! 明緒ちゃん?」
 甘ったるい呼びかけは無視して、ドスドスとリビングを出た。

 どうして親子の会話っていうのは、いつもこんなにちぐはぐなんだ?
 そりゃあ、あたしだって悪いよ。
 おきたことを端から全部、報告しようと思ったりしないから。
 だけど、アイツを家に呼べ?
 まったく、母さんてば、なに考えてるの?
 いったい、アイツが(ウチ)に来てたの、いつのことだと思ってるんだ。
 もう5年も前だよ、5年も。
 その間、あたしがひと言だって、アイツのことを話したりしたかぁ?
「ああ、もう!」
 許せない!
 たったの16歳で、こんなに思いだしたくない過去があるなんて、なんて不幸。
 それもこれも、みんなおまえのせいだ!
 藤島 慎吾!
 考えるのもいやだから、忘れてやるけども。