でっかい身体を丸めてホームを逃げ回る慎吾(しんご)を追いかけているうちに、ホームに電車がすべりこんできた。
 窓ガラスの向こうで、()り革につかまった涼子(りょうこ)が、ため息をついているのが見える。

 ドアが開いて、あたしたちが乗りこんだとたん、あいさつもなしに、
「いいトシして。やめてよ、ふたりとも。みっともない」
 涼子に怒られて。
 慎吾とふたりで「だって!」「だってよぉ」
 練習したようなシンクロぶりに、顔を見合わせて、ふきだしちゃったりして。


 こんなふうに、ときどき顔をだすムカシのあたしたちは、あたしたちが友だちから、ちがうなにかに変わる日を、たぶん少しだけ早めるだろう。
 あたしたちは、もう一度やりなおしだけど。
 積み上げている思いは、きっとまわりのだれより高いから。
 きっといつか、ただの友だちじゃない、なにかになれる。
 それをなんて呼ぶのか、あたしはまだ決めたくないけれど――。

「おい(あずま)、おまえじゃま! もっと向こう行け!」
「やぁだぁ、ちょっと明緒、こいつなんとかしてっ!」
「んもう。やめなさい、慎吾!」
 こんなふうに、笑いながら、怒りながら。
 新しいふたりで。
 たぶん、きっと――。

ー了ー