ガサガサ開くと、まっすぐ目に飛びこんできたのは、あたしもよく知っているJリーグチームの、練習用グラウンドの名前。
「これって……」

 すぐには理解できなくて。
 学活のあいだ、先生の声も聞こえなくなるほど真剣に、クイズを解くように、そのへたくそだけど几帳面(きちょうめん)な字を目で追っていた。
 四角くて大きさのそろった特徴のある字は、よくおぼえているチビ慎吾(しんご)の字と全然変わらない。
(成長のないやつ……)
 だけど、その文字は、驚くほどたくさん、いまの慎吾のことをあたしに教えてくれた。

 慎吾が部活をしないわけ。
 いつだって掃除をさぼるわけ、帰りが遅いわけ。

「アイツ……」
 その場所は、けして近いと言える距離じゃなくて。
 慎吾がそこに通っているなら。
 そのプロのチームの、ユースクラブに通っているなら。
 どれほどの時間を、そのために()いているか。
 そのうえ学校の勉強だってして……。
(ああ……)
 思えばあたりまえだ。
 だれがふられた、だれが泣かされた。
 ひとつも、つきあったカノジョの話が伝わってこなかったのは、なかったからだ。
 女の子と遊んでいるような時間が慎吾にはなかったから。

 うわさなんて、いいかげんなものだって知っているくせに。
 あたしは、うわさに聞いた慎吾のことを本当の慎吾みたいに、ずっと思っていた。
 ううん。
 思おうとしていたんだ。

 なさけないやつだって、いやなやつだって、そう思えれば、慎吾を許せない自分の心のせまさに傷つくこともない。
(ああ、でも)
 だから、あたしは見ちゃいけない。
 本当の慎吾を見ちゃいけない。
 慎吾を許せない心の向こうにあるものを、自分から探しに行っちゃいけないんだ。

 きらいになったわけじゃ…ない。
 ただ、許せなかっただけだって――…。

 認めてしまえば、あたしはきっと、いつか慎吾の気持ちに負けてしまう。
「こ…わいよ、慎吾」

 きみはあたしに、なにを見せたいの?
 あたしはそれに、目をつぶっていられるのかな。