あとはもうめちゃくちゃ。

 悪ノリした男子が女子たちに投げつけるボールに先生が激怒して。
「やれ! ごぼう姫。おれが許す。股間(こかん)だ!」
「まじ!?」
 いいんだな。あたしはねらえるぞ。
 ねらいを定めてステップするあたしに、あわてたのは慎吾(しんご)
「やめろ、明緒(あきお)! ――先生、こいつ本当に当てるぞ。マジ死ぬからっ」
「もう遅いわっ」
 3メートルの距離から、ふらち者の股間にシュート。
「うげぇぇぇぇ」
 うめいたのは、あたしの横にいる慎吾だ。
 もろにボールを受けた男子は、股間を押さえてフロアに転がっていて。
 あたしは女子たちの歓声につつまれる。
「よし! みんな、姫に続け。応戦だ。先生が許す! 男子はボール禁止!」

 うええええ。きゃぁぁぁ。
 館内がわけのわからない歓声でどよめいて、フロアをこするシューズの音で、もう外の雨音すら聞こえない。
「あはははははは」
 その笑い声が特別だったのは、それがすぐ横から聞こえたからだ。
 手渡された白いボール。
「ひでぇな。ボール禁止は明緒だわ。先生まーじ、わかってねえ」
「…………」
「おれの股間はかんべんしてくれな」
「…………」
「じゃ。おれも逃げるわ。レッツゴー!」
 さっと手を上げて。
 騒ぎの真ん中に走っていく慎吾。
「おらおら、ごぼう姫。藤島(ふじしま)の背中がガラ空きだぞ」
 思いきり走り回れるのが楽しいのか、先生の額がめずらしく汗ばんで頬も赤い。
「……ふふ」
 なんだろう。
 久しぶりの、このかんじ。
「先生。先生も男子…だねぇ? ――――みんな!」
 気づいたまわりの女子たちが、ボールをかまえてワラワラと集まってくる。
「せーの!」
「こらっ。よせ、恩知らずども。うわ、やめんかぁぁぁ」
 頭をかかえて逃げる先生を追いかけて、みんな笑っていた。
 みんな、こどもみたいに。
 男子も女子も先生も。
 涼子も慎吾も。
 そして……、あたしも。