母と、父が、死んだ。
病室には入らずに、私は亡骸をみた。

悲しくなかった。苦しくなかった。
親に恨みがあった訳でも、むしろ尊敬していた。
ただ、悔しかった。
私が助けられていたら、今頃皆でご飯を食べていたはず。


妹は今日から宮城に住む。
今は多分――新幹線の中だ。

一人で生きる為に何かをして来たわけでも、一人で生きる事に自信を持っていたわけでも、なかった。

向かいに住む藤澤さんと離れるのを、拒む自分がいた。

泣いていた私を救ったのは藤澤さん。

悔しかった私を救ったのは藤澤さん。

私は藤澤さんに恋心を抱いていた。

藤澤さんには、彼女がいる。
私は嫉妬した。私は悲しんだ。
うやむやな気持ちがなんなのかわからなくなった。でも、それが恋と言う感情なんだろう。

覚悟は、必要なんだよな――







「えっ、亡くなった!?」





「驚きすぎですよ!そうなんです。死んだんですよ。食中毒で。」





食中毒の明太子をばくばく食べて、亡くなった。
明太子で死ぬなんて、なんかロマンがないなあ。
ま、悲しいことは悲しい。それよりも、悔しいけど。






「今日から一人で。そこで、藤澤さんに、家を行き来してほしくて。」






「行き来?」






そう、私は藤澤さんにご飯を作って貰ったり、遊び相手になって貰ったり、そうだ、家族の様に接してほしかった。
一時はビックリ連続の藤澤さんだったけど、快く引き受けてくれた。まさかだったけど、嬉しかった。