その中でも私がよく覚えているのは、あの出来事。
それは小学一年生の頃のこと。
ある日、同じクラスのある女子児童が私に近づいてきた。
その女子児童は、特に私と仲良くしているわけではない。
それなのに私のところに来るなんて。
その子は私に何の用だろう。
そう思いながら私は、その女子児童のことを見た。
すると女子児童は、私にこんなことを言ってきた。
「麻倉さん、このクレヨンと交換して」
その女子児童はそう言うと、女子児童が手にしていたクレヨンを私に見せた。
私は、その女子児童が手にしているクレヨンを見た。
そのクレヨンは、見事に真っ二つに折れていた。
そんなことを言われたら、他の女子児童たちは「ダメ」とか、そういうことを言うのだと思う。
けれど私は、その女子児童にそう言われて、特に何も言わずに、ただ「うん」と言ってしまった。
そのとき本当は、私もその女子児童に『ダメ』と言いたかったのだと思う。
たぶんそうなのだけど、なんでだろう。
なんでそのとき「うん」と言ってしまったのだろう。



