ツンとする慣れない匂いは、いかにも病院って感じだ。
午前中のこの時間は、混んでいるらしく、1階の受付はたくさんの人が座っている。
どの人も、この都市の住人なので、お金持ちに変わりはないのだけれど。
そんな人たちの間を縫って、慣れた手つきで爽介さんは奥に進む。そして、受付の裏側の扉に入って行く。
そこ、私が行っていいのかな。
普通なら部外者は立ち入り禁止だ。
だけど、手前で立ち止まっていることに気がついた爽介さんは、戻ってきて、私の腕を引いて中に入った。
「みんな、ちょっといい?」
その場にいた看護師さんや、先生に向かって声をかけた。
仕事中なのに良いのかな。
邪魔になっているような気がして、肩身が狭くなる。
なのに、そんなのをお構い無しに爽介さんは口を開いた。
「仕事中にごめんね。みんなに紹介します。この人が僕の奥さんです。よろしくね」
昨日も言われた、“僕の奥さん”という響きに、胸がドキッとする。