誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



律さんはそう言うと、私の耳から頬の辺りに手当てて顔が自分の方へ向くように寄せた。
それからもう片方の手で、私の唇にそっと触れる。

(これって……)

心臓の音がやたらにうるさい。
目を閉じるべきか迷っていると、


「特に赤くなってないから大丈夫だろ」


結果として何も起こらず、顔も解放された。
わざとなのか、それとも天然なのか、いやきっと深い意味はないのだろう。
律さんにとって私は、今も5歳の子供なのかな……?
悔しいような、寂しいような。
黙っていると、


「どうした? もう眠いか?」

「いえ……」

「眠くないなら、お母さんの話をしてくれ」

「お母さんの?」


この時、私はよっぽど不思議そうな顔をしていたのだろう。
律さんは「ああ、いや、」と少し困ったように自分の額に手を当てた。


「さっき病院で取り乱した百花を見た時、気付いたんだ。百花のお母さんが亡くなった時のことを知らないな、と」

「……?」

「これまで遠くからではあるが百花の人生を見守ってきたつもりだった。だが、百花のお母さん、零さんが亡くなった時は、海外にいたんだ。帰国してから訃報を知ったんだ」

「そうだったんですね」

「ごめんな、何もしてやれなかった」