「申し訳ないですけど、転院の手続きをお願いします」
「百花」
「私は、病室に」
「百花、聞け!」
律さんの声は低く小さく、しかし確かに響く。
真っすぐな瞳が、私を射貫いた。
「ハナさんが心配なのは分かるが、今は持ちこたえて薬で眠っている。今日、明日、どうこうなるってことはないんだ。だからまずは、自分の体を優先しろ」
「自分を優先するなんて、できません」
「どうしてだ?」
「私……母を亡くした時、自分のことで精一杯で見舞いにもあんまり行かなかったんです。まさか、そんなすぐ死ぬなんて思わなかったし。あっと言う間のことで……すごく後悔しているんです」
「だから、できるだけ傍にいてやりたいと?」
「当たり前じゃないですか、家族なんだから」
「その家族に心配をかけないようにするのも、必要だろ」
律さんはそう言うと、私の腕を取り鏡があるところに引っ張っていた。
そこに映る自分の姿を見て、彼の言う意味が分かった。
「……酷い顔」
「そんな顔をハナさんが見たらどう思う? 心配でゆっくり休めないだろ。家族を安心させてやるのも思いやりだ」
確かに、律さんの言う通りかもしれない。
こんな顔をハナちゃんが見たら、自分のことより気になっちゃうはずだ。



