誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



「ぷはー、沁みる~~お代わり!」

「今日はもうお仕事終わりですか?」

「うん? うん、終わった。終わったことにしよう」

「(適当だなぁ……)」


魅力的な笑顔を振りまき、人の懐に上手く入り込む。
昔からこうだったかな……?
幼かった私はどんな風にして、お兄ちゃんに懐いたんだろう?


「この前も思ったけど、百花ちゃんの料理美味しいよね」

「ありがとうございます」

「お母さん譲りだね」

「覚えてます?」

「もちろん、覚えてるよ。この煮物の味なんか、そっくり」


嬉しいな、母の味を覚えていてくれたなんて!


「昔、料理をする母の目を盗んではつまみ食いをして怒られましたよね」


感動しつつ懐かしくなって、昔の話をお兄ちゃんにしてみる。
思えば、こんな風に母のことを話すのは初めてかも。


「あぁ、あったね。そんなことも」

「お仕置き用に使ってた部屋も、まだ残ってるんですよ」

「お仕置き用の部屋?」

「覚えてないですか? そこの奥に……、あっ、いらっしゃいませ」


いつの間にか開店時間になっていたらしい。
暖簾が出ていないせいか遠慮がちに中を覗き込むお客様に、「どうぞ」と声を掛ける。
3人組の男性客だったので、テーブル席に案内した。