お兄ちゃんの言う事は間違ってないけど……。
いくらお店の客人として招いただけだと言っても、律さんは良い顔をしないだろう。
お兄ちゃんの浮気を疑っているお姉さんだって、面白くないはず。
せっかく再会できたお兄ちゃんを無下に扱うのは、心苦しいけど……。
「お兄ちゃん、もうお店には来ないでください」
「……百花ちゃんまで、そういうこと言うんだ」
「え?」
「会社では有能な弟と比べられて、家では奥さんに浮気を疑われる。誰も俺のことを認めてくれないし、信用もしてくれない」
「そんなことは……」
「可愛がっていた妹にまで冷たくされるならもう死んだ方がマシだな」
「そんな! 死ぬなんてダメです!」
「じゃぁ、時々相手をしてよ。ただの客としてでいいから」
うっ……なんてずるい顔をするの。
子犬のような瞳で見つめられて、「嫌です」なんて言えるわけがない。
「……ビールで良いですか?」
「うん、ありがとう」
私ってこんなにも情に絆されやすいタイプだったっけ……?
いや、違う。お兄ちゃんが1枚も2枚も上手だからだ!
さっきまでの泣き顔はどこへやら、お兄ちゃんはビールを美味しそうに飲み干した。



