誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



どうして、桐ケ谷家の人々はいつも突然なんだ?
私の返答を待たずに店内に入って来たお兄ちゃんは、カウンター席の真ん中に腰を下ろした。

(もう個人的に会わないって決めたばかりなのに……)

そんな心情が表に出ていたらしい。


「そんな困った顔をしないでよ」

「でも……あのね、お兄ちゃん、」

「奥さんから聞いたよ、この前、ふたりでランチに行ったんだって?」

「えっ、あ、はい」


頷いた私に、お兄ちゃんは柔らかい笑みを浮かべた。
それから少し困ったように溜息を吐く。


「どうせあいつのことだから、俺が浮気してるんじゃなかって疑ってるんだろ」

「それは……」

「で、百花ちゃんは俺と2人っきりで会うのはやめようと考えた」


図星を突かれて、顔が熱くなる。
お兄ちゃんは畳みかけるように続けた。


「疚しいことがあるわけじゃないのに、どうして俺らが気まずい思いをしなくちゃならないんだろう?」

「それはそうですけど、やっぱり人の目もありますし……」

「だから、こうしてお店に来ただろ。妹がやってる店に兄が食事をしに来る。極、自然なことだ」

「……」