「念のため、冷やしておいた方がいい」
「そうですね、すみません……」
「なぜ謝る? そもそもここにゴルフバッグを置いていた俺のせいだろ。悪かった」
「いえ、律さんは悪くないですよ……この前のことも、ごめんなさい」
「この前?」
呟くように私の言葉をおうむ返しにした律さんは、少しして何のことか分かったようだ。
心配そうにしていた顔が、すっと真顔に戻り。
「あのことを蒸し返すのは、無しだ」
そう言い残して、自室に戻ってしまった。
* * *
律さんが出張に行った翌々日。
お店の開店準備をしていた私は、休憩がてら果歩に電話を電話を掛けた。
『常務と専務の確執? さぁ知らないけど、もう今は私よりも百花の方が詳しいんじゃないの~? 』
「そうでもないよ、他人より遠い身内だから」
『そうだなぁ~あんまり仲は良くないって聞いたことがあるけど、家族経営ならよくあることじゃない?』
「どうして?」
『そりゃぁ、どっちが跡を継ぐとかさ』
「なるほど」
確かによく耳にする話だよね。
ということは、律さんも後継者を狙っているってこと?
それでお兄ちゃんと仲違いしちゃった?
どうだろう、何だかイマイチしっくりこないけど。
『それより今旦那いないんでしょ? 泊まりに行ってもいい?』
「うーん、どうかな……」
律さんとの家に友達を勝手に泊めるのはどうかと考えていると、不意に店のドアが開いた。
「すみません、今準備中で」
「ごめんね、近くまで来たもんだから」
「お兄ちゃん……」



