誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



あの女性は、『ゆみ』さんというのか。
律さんは秘書を下の名前で呼んでいるの?
彼女が差し出した資料を覗き込む律さん、その彼のネクタイが曲がっていたのか直そうとする。
その姿に、どうしてだろう、モヤモヤする。
こういう感情って確か――――。


(ヤキモチ? まさかね、ありえない)


別に律さんが秘書を何て呼んでいようと、仲睦まじくしていようが関係ない。
秘書なんだから(秘書じゃなく部下かもしれないけど)いつも一緒にいるんだろうし、親密な関係だったとしても不思議はない。
別に私は……。


「あれ、百花ちゃん」


エレベーターが1階に到着し、ドアが開いたと思ったらお兄さんがそこにいた。
私の姿を見て、驚いたように目を丸くしている。


「あ、こんにちは」

「どうして会社に?」

「律さんのお使いで」

「そうなんだ、人使い荒いね、あいつは」


そう言うとお兄さんは微笑む。
目尻のシワがぱっと広がる優しい顔。
出先から戻ったところなのかビジネスバッグを片手に持ち、お付きの人は連れていない。
もしかして、これは『シンお兄ちゃん』であることを確かめるチャンス……?