「……そんなに嬉しいか?」
「え?」
「さっきからずっと笑ってるから」
「嬉しいですよ、実はミュージカルが大好きなんです! すっごく楽しみです~」
「なら、良かった」
そう言って、律さんがふっと笑う。
それは口の端をほんの少し緩めるだけの笑顔だったけど、私、律さんのこの表情好きだなぁ。
嬉しい気持ちが2倍になる気がする。
それもあってニコニコしていると、
「常務、そろそろ時間です」
律さんの背後から、彼を呼ぶ女性の声がした。
「あぁ、今行く」
「先方とは連絡が取れていますので……あ、奥様がおいででしたか。こんにちは」
「こんにちは」
うわー、すごく綺麗な人だなぁ。秘書さんかな。
美人というよりハンサムという言葉がしっくりくる知的な顔に、パンツスーツがよく似合っている。
私の顔を知っているということは、結婚式で会ったのかな。
「書類を届けてくださったのですね、すみません、私たちが不在だったせいで」
「いえいえ、そんな」
「今、お茶をお入れしますね」
「あ、お構いなく。もう帰りますので。律さん、私はこれで……」
「あぁ、気を付けて」
挨拶を済ませてからエレベーターの方に向かう途中、背後から律さんと秘書さんの話し声が聞こえてくる。
その会話の中で、律さんの『ゆみ』と呼ぶ声に思わず反応して、振り向いた。



