誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



「ごめん、電話だ」

「お、愛しの旦那さまからじゃん。どうぞ、出て」


からかってくる果歩をひと睨みして、スマホをタップする。
すると、律さんにしては珍しく慌てている声がした。


『今、どこにいる?』

「友達とランチに来てます」

『そうか、外か……』

「どうかしました?」

『いや、急ぎで必要になった書類が家にあって、持ってきて貰おうかと思ったんだが。あいにく今日は秘書も部下も出払っていて人手がないんだ』

「それでしたら、私が届けますよ。家の近くにいますし」

『……悪いな、頼めるか』

「はい、急ぎますね」


律さんが仕事の件で、私に頼みごとをするなんて珍しい。
声からしても、よっぽどの緊急事態なんだろう。
慌てて立ち上がると、果歩が既に会計を済ませてくれていて、お店の出入り口で「早く!」と手招きしている。


「ありがとう! 今度、奢る!」

「回ってないお寿司で」

「了解!」


* * *


久々に来たKIRIGAYAグループの本社は懐かしい感じもするけど、派遣社員の時には絶対に足を踏み入れることができない役員エリアに驚きを隠せない。
洗練された空間に、豪華なインテリア、精密なセキュリティ。


(一般エリアも近代的で十分キレイなオフィスだったけど、ここは桁外れね)


そして、この役員エリアで働いている人たちも一般と比べてオーラが違う。