誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



どうしてそんなことを聞くのだろう?
質問された家主さんも訝し気な表情で、常務を見ている。


「まだだけど、ここは場所が良いからすぐ見つかると思うよ」

「そうですか、ではうちが買いましょう」


……は? 常務はいったい何を言っている……の?


「あんたは?」

「申し遅れました。私はこういうものです」


常務の名刺を受け取った家主さんは、分かりやすく顔色が変わった。


「KIRIGAYAグループって、不動産デベロッパーだよな? マンションとかビルとか……」

「ええ、ちょうどこの辺りは再開発の予定があるので」

「そいつはありがたい! 再開発ってことは高く売れるよな」

「希望額をおっしゃってくだされば、それにお応えできるかと」

「本当かいっ!?」


ちょっと、待って。何、この会話。
トントン拍子に進んでいるようだけど、常務がこのビルを買う?
一体、何のために? 再開発の話なんてあったっけ……?


「あ、あの!」


会話に割って入ろうとした私を、常務が遮る。


「あぁ、そうだ。彼女はこれから病院へ行かなくてはならないで失礼しますよ。詳しいお話はまた今度改めて」

「そうかいそうかい。じゃぁ、零さん、そういうことでね」

「いや、あの、」

「どこが悪いのか知らないけど、お大事にねー」