誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします



「小料理屋の方か……」


渋滞し始めた道路を縫うように走る車の中、不意に常務が呟いた。
革張りのシートに身を沈め、長い足を組んだ彼の視線は手元のタブレットに向けられたままだ。


「え?」

「さっき言った住所だ」

「もしかしてご存知ですか?」

「いや、別に」


ん? じゃぁどうして聞いたの?
お客さんとして来店したことがあるとか?
いや、でも……常務のような若くて見た目が印象的な人が来たら覚えているだろうから、違うかな。
それにしても、気まずい。
話しかけにくい雰囲気を醸し出しているし、会話を楽しむようなタイプにも見えない。


「あ、あそこの白い看板のところです」


沈黙に耐え切れなくなったところで、お店に到着した。


「ありがとうございました」

「病院はいつ行く?」

「本当に大したことないので。大丈夫で、うっ」


車から降りようとした瞬間、またも足首に鋭い痛みが走った。
困ったな、これじゃ足袋を履けないし仕事するのもキツイかも。


「よほどの頑固者か、鈍いかどっちかだな」


隣に座っていたはずの常務が、いつの間にか私がいる側のドアの外に立っていた。


「急いでいるんだろ? 手を貸して、連れて行く」

「……すみません」