「ちょっと足を捻っただけです」
「それを怪我って言うんじゃないか?」
「湿布を貼れば治ります」
「そういう問題じゃないだろ」
「すみません、本当に本当に急いでいて……もう勘弁して貰えませんか?」
「勘弁するも何も……」
常務は考え込むような顔をした後、「分かった」と呟いた。
それからおもむろに車のドアを開け、私に乗るよう促す。
「警察を呼ばない代わりに君を送っていこう。それから急ぎの用が済んだら病院に連れていく。これでいいな?」
「そ、そんな、そこまでして頂かなくても」
「この件についてこちらと君の意思が一致することはないだろう。なら、交渉するまでだ。これで手を打ってくれ」
なるほど。
この人、冷たいというか現実主義者……?
ものすごく冷静な判断をするのね。
「……分かりました。では、お願いします」
何だか、すごいことになってしまったな。
まさか常務の車に乗せてもらうことになってしまうなんて……。
果歩に話したら、大興奮しちゃうかも。
「送り先は、どこだ?」
「あ、えっと」
お店の住所を伝えると、運転手さんは素早い手つきでナビをセットした。
オープンの時間には大幅に遅れそうだから、先に張り紙をしておこう。
お客さんに迷惑がかからないと良いのだけど……。



