真摯な対応は有難いのだけど、警察なんて呼ばれたら時間がかかってしまう。
ましてやどこも痛くないのに、救急車なんて大げさだ。
「あの、私、本当に大丈夫ですので」
「そういうわけにはいきません」
「車とは接触してないので事故にはならないですよね? そちらも怪我をされてないようですし、傷もないですよね? 警察も救急車も必要ありません」
「いや、しかし……」
「すみません、急いでいるので失礼し……痛ぁ」
歩き出そうとしたところで、右足首に鋭い痛みが走った。
どうやら転んだ時に捻挫をしたみたいだ。
「あぁ、やっぱり怪我を」
運転手さんはそう言うなり、スマホを取り出し操作をしようとする。
「いや、こんなの大したことないんです」と言おうとしたところで、車の後部座席のドアが開き、同乗者が降りて来た。
ブラックスーツを着た、随分と美形な男性。
その男性が誰だか分かった瞬間、声をあげそうになった。
今朝、果歩と話していた常務だ。
「どうした? さっさと警察を呼べ」
「それがこのお嬢さんが必要ないとおっしゃって……」
「怪我をしたんじゃないのか?」
常務の視線が真っすぐにこちらに向く。
ただ目と目が合っているだけなのに、体が硬直していくような……。
すごい目力だ。



