洋服姿の母を……?
それってお店以外で、母に会ったことがあるってことだよね。
そんなことあったっけ?
「百花が大学を卒業した年、俺はアメリカの支社に転勤することが決まっていて。出国する前にどうしても百花の顔を見ておきたくて、家の近くまで行ったことがあるんだ」
「えっ」
律さんが家の近くまで来たなんて、信じられない。
思わず顔を見ると、彼は気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「その時、零さんに見つかって声を掛けられたんだ」
「母は何て?」
「”いつもお花をありがとう”って。こっそりしていたはずなのに、バレていた」
「お母さん、知ってたんだ。じゃぁ、どうして私に教えてくれたかったんだろう?」
「そういう人なんだよ。気付いていても俺の考えを尊重してくれたんだろう」
「そうだったんだ……」
「釘も刺されたけどな」
と、律さんは苦笑交じりに続ける。
「”勇気を出して、いつか百花に直接渡してあげてね” ってさ」
「お母さんらしいかも」
「あぁ、そうだな」
……不思議。
さっきまで、母のことを思い出して悲しくなっていたのに。
律さんと母の話をしているうちに、温かい気持ちになってきた。
こんな風に話して、笑える日が来るなんて思いもしなかった。
ずっと凍らせていた母への想いを、律さんが溶かしてくれたんだね。



