誠に不本意ではございますが、その求婚お受けいたします


感謝を求めるわけではないけど、喜んでもらえるのは嬉しい。
こんな私でも役に立てるんだって思ったら、少しくらいの無理もできる。

――とはいえ!
残業が終わったのは、18時。
お店のオープンまで30分しかなく、大急ぎで帰り支度をして会社を出た。

(さすがにちょっと……間に合わないな)

ここから自宅まで電車で約25分、自宅からお店までは徒歩5分。
髪の毛をアップにするのに10分、着付けはどんなに急いでも15分はかかる。
頭の中でそんな計算をしながら駅までの道を走っていると、

「危ないっ!」

誰かの叫び声が聞こえたのと同時に、シルバーの物体が目に入った。
キキッーーーと車のブレーキの音が響き、全身の毛が逆立つ。
あっと思った頃には、地面に尻もちを付いていた。


「だ、大丈夫ですか?」


どうやら私は車に轢かれそうになったらしい。
車の運転手さんが慌てた様子で降りてきて、私に近づく。


「すみません……! お怪我は?」

「い、いえ、飛び出したのは私の方ですから。怪我もないみたいです」


そう、急いでいるあまり無理な横断をしたのは私の方で。
青ざめた顔で謝罪の言葉を繰り返す運転手さんが気の毒になってしまう。


「本当に大丈夫ですので」

「いえ、念のため救急車を呼びましょう。警察にも連絡します」

「そんな!」