「きゃああ!」

廊下に悲鳴が響き渡った。

「夏希!蒔絵!」

あたしは、蒔絵の腕を掴みながら、悲鳴がした方に走った。


「赤点!赤点!」

と叫びながら、生徒を囲む全身黒タイツの下っぱ戦闘員。

「助けて!」

輪の中で怯える女生徒。


「いくわよ」

あたしの言葉に、夏希が頷いた。

「だりぃ〜」

蒔絵は強引に引っ張っていく。

女生徒に近づこうとしたあたし達に、新手の黒タイツ達が立ちふさがる。

「落第!落第!」

タイツに砂や、砂利を入れたというシンプルな武器を振り回し、下っぱがあたし達に近づいてくる。

「どうするの?まだ変身できない!」

勢いよく来たものの、変身できなきゃ…ただの女の子だ。

「月は出たの!」

あたしの叫びに呼応したように、後ろから誰かが走ってきて、あたし達を飛び越えると、下っぱに飛び蹴りを食らわした。


「九鬼!」

着地と同時に、裏拳を下っぱにたたき込んだのは、乙女ブラック―九鬼真弓だ。

「月は満ちたわ!」

九鬼はあたし達に言った。

「とりゃあ!」

囲まれた女生徒の向こうの廊下から、ほうきを持った平城山加奈子が、走ってきた。 

ほうきを振り回し、下っぱを蹴散らす。

その隙に、囲まれていた女生徒は逃げることができた。

「加奈子!」


加奈子と九鬼が、あたし達の横に並ぶ。

「みんな!いくわよ」

「うん!」

一斉に、蒔絵を除いて頷くと、

「装着!」

あたし達はどこからか、各々色のケースを取り出した。

「馬鹿目!そう毎回、変身させるか!」

下っぱの中から、同じ全身タイツなのに、1人コートを羽織った者が前に出てきた。

「我は下っぱアルバイトリーダー!怪人おいなり!くらえ!我が攻撃を!」

怪人おいなりが、コートを開けた瞬間、

「きゃああ!」

あたし達は、変身どころではなくなった。全身に悪寒が走り、あたし達は顔を背けた。

「私のおいなりさんの前では、変身できまい!ハハハ!」

おいなりは、高らかに笑い声を上げた。