何も言わない狼くんの顔を見る勇気はなかった。


また傷つくだけだもん。
どうせ狼くん、そういう表情してるもん。





『ひなのこと、幼なじみだなんて思ったことない』





幼なじみ未満の私となんて。

嫌いな私となんて、ふたりきりで暮らしたくないに決まってる。



いや、に決まってるよね……。




思い出して、また落ちこんでしまった。





「ひなちゃん? 大丈夫?」

「あ、はい……っ」



いつのまにか、うつむいてしまっていた。
慌てて顔を上げる。


大丈夫だよ。
狼くんママの言うとおり、私たちももう高校生。

子どものお留守番じゃないもん、生活していくってだけなら、そんなに大きな心配はしていない。



……けれど。
まともに口もきけていないこんな状態で、狼くんとふたりきりでこの家で過ごすことには、心配がつきないの。


成り立つのかな。
大丈夫なのかな……と不安で頭がぐるぐるしてくる。



「母さん」



口を開いたのは狼くんだった。
さっきまで何も口を挟まなかったのに、急に。