「……っ、ひどいですよ」
「あ?」
冷たい目、冷たい声。
ここにいる狼くんは、私が会いたかった狼くんじゃない。
だったら、私はなんのために。
「私がなんのためにここに戻ってきたと────っ」
ぎゅう、とワンピースの裾を握りしめて。
ふるえる声で抗議しようとした、そのタイミングで。
「あらっ、ひなちゃん? もう着いてたのね」
「……!」
ほんわか、おっとりした声。
振り向くと、スーパーの袋を抱えていかにも買い物帰りといった様子の。
「お久しぶりですっ、近原ひなです……!」
「あらあら〜、そんなかしこまらなくっていいのに。それより、しばらく見ないうちにかわいらしいお嬢さんになっちゃって〜」
んふふ、と楽しそうに微笑む。
そんな彼女は、狼くんのママだ。
子どもにとっての10年間と大人にとっての10年間ってぜんぜん違うんだよ、ってどこかで聞いた気がするけれど、ほんとうにそうかもしれない。
狼くんのママは、私の記憶のなかでの姿とほとんど変わりないままだった。



