狼くん、ふれるなキケン!



うっすらとしか覚えていないけれど、昔のまやくんはこんなんじゃなかった。幼稚園の頃のまやくんといえば────。


と、記憶のふたを開けようとしたところで。





「からかってるわけじゃないんだけどなー」

「はい……?」

「本気でかわいいって思ってるんだけどー?」

「……ぜんっぜん、本気って顔じゃないですそれ!」





きっ、と睨む。

まやくんはくはっ、とまた笑う。





「でも、ひなちゃんのこと可愛いって思ったのはほんとう」





安売りのかわいい、に「はいはいありがとうございます」って軽く流そうと口を開きかけた、のに。

まやくんはなぜかそれをゆるしてくれなかった。





「……!」





とん、とまやくんが廊下の壁に手をつく。
ちょうど、壁際にいた私を囲うような感じで。



急に檻のなかに入れられてしまった私は、目を見開いて脱出を図ろうとするも、かなわなかった。



まやくんって決して大きいわけでもガタイがいいわけでもないけれど、それでも男の子なんだ。




狼くんがあれほど成長していたんだもん、そりゃあまやくんだって……と観念して逃げるのを諦める。