迷いなく言い切ったひな。
これも一言一句間違えることなく、ずっと頭の片隅に焦げついて、離れない記憶のひとつ。
もう、ほんとうにここから出て行こうとするとき、ひなが車に乗り込もうとする寸前、ほんとうに最後に交わした会話だ。
確かめたかったのかもしれない、『ひなは、狼のことがきらい』だって言った、あの桜くんのセリフが真っ赤な嘘だと証明してほしかった。
────なのに、結局ひなの言葉は、桜くんの言葉を裏づけた。
『寂しくない』……って、なにそれ。
少しの未練もないんだ、ほんとうに。
清々しい笑顔で手をひらひらと振るひなに、絶望した。
それ以上、何も聞けなかった。
臆病な俺には、もうこれ以上はこわかった。
ぜんぶ一方的だったんだと思い知らされた。
俺はひなと離れたくなくて、それくらい大切な存在だと思っていたのに、彼女にとっての俺は何でもなかった────いや、それ以下か。
『だから、狼のせい。ひながどっか行っちゃうのは』
俺がきらいだから。
“寂しい” なんて思うはずもなかったのか、最初から。ずっと、ひなは俺から離れたがっていたのかもしれない。────ずっと、っていつから?
このときからだ。
それまで、誰よりもいちばんそばにいるはずで、よくわかっているつもりでいた、彼女の心は誰よりも難解なミステリーになった。
でも、もうきっと会うこともないんだろう。
俺のことがきらいなら、ひながここに戻ってくることもない。
だから、ひなのことなんて────忘れてしまえばいい。



