- side 狼 -






バタン、と勢いよく扉が閉まる音を背中に聞いた。


呆然と立ち尽くす。

ひなの気配がなくなって、ようやく冷静さが戻ってきた。



ずるずるとその場に座りこむ。

今さら、ひなに平手打ちされたところがじんじんと熱を持ちはじめた。



「……痛え」



赤くなっているであろう箇所を手で覆う。

全力で叩いたんだろう、けっこう本気で痛い。
あの小柄な体のどこからそんな力が出んだよ。馬鹿力だろ。


────ひなにこうして平手打ちされるのは、二度目だ。



『っ、最低……っ!』



1回目はひながここに戻ってきた日。

無遠慮に踏みこんで、近づいてこようとするひなに振り回される感覚がこわくて、それからふつうに、魔がさして。


うるさく俺の名前を呼ぶその口をキスでふさいだ。



……ひなは、本気で、俺があんなこと誰にでもできると思っているのだろうか。

だとしたら、大ばかだ。するわけないだろ。




じっさい、いつだって俺の方が驚いている。


ひなといると余裕なんてない、素直な心の内を見せるわけにもいかない。遠ざけるしかなくて、いつも気づけば冷たく当たってしまっている。



当たり散らすように酷いことをしてしまうこともある。それに気づくのはいつも、事が終わってからだ。