────俺のものになればいいのに。


でも、ひなはそんなこと少しも望んでいない。




『狼くん、狼くん』
『呼んでみただけ、です』




盲目的なことを言うくせに、俺だけを見てるわけじゃない。



見計らったようなタイミングで、ピコンと音を立てて、枕元に置いてあるひなのスマホの画面が光った。

見るつもりはなかった、なんて心の中で言い訳しつつ、ちらりと確認してしまう。




メッセージ一件、差出人は八木真矢。


[ 今日の板書送っとくねー ] というそれだけの文面に、ちりっと胸の真ん中が黒く焦げつく。




────ちょっとしたことで浮かれてるのがばかみたいだ、ってもう何度も思わされた。最悪なことばっか、ひなのせいでずっとぼろぼろだ。




だけど、もういい。

傷つけられるのも、ひなにだったら、別に我慢する。


欲求も押し殺して、必要以上に近づかないように、最初からずっと我慢してるんだよ、これでも。こわがらせたくない、傷つけたくない、大切にしたい────。



近づくと何をするかわからない。



ふれたい、ふれたくない。

葛藤のなかで選んだのは “ふれない” 方だった。




ひなのことをいくら考えたところで報われないことは知っている。ひなが俺のことをどう思ってるか、なんて、もうとうにわかってるから。────“あの日” 聞かされたことがすべてだ。



だったら、せめて。