- side 狼 -






すーすー、と規則正しい寝息が聞こえてくる。

安心しきったような寝顔が、恨めしい。




「はー……」



堪えていたぜんぶ、吐息に変えて吐き出した。
思わず項垂れる。



こいつは、ほんとうに、ばかだ。

傘を持たずにずぶ濡れになって帰ってくるし、風呂からタオル一枚で飛び出してくるし、挙句の果てに風邪をひいてる、ただのばか。



────じゃあ、そのばかにいちいち煽られてる俺は何なんだって話。





「理性、飛ぶ……」





これ以上は、まじで、やばい。

ここ最近、そう思ってばかりだ。


一歩間違えば、タガなんて簡単に外れてしまう。いつ本能が飛び出してきてもおかしくない。


それは、今だって同じ。




「……っ」





ぎゅう、とひなの小さくてやわらかい手のひらが、俺の手を握る。「離さない」とでも言うように。


熱があるから、そのせいなんだろうけれど。

苦しげにこぼす、あつい吐息も、桜色に染まった頬も。





この状況で、こんな姿のひなを見て、手を出したくならない男なんているんだろうか。

よこしまな気持ちを少しも抱かずにそばについてやれる男なんて……きっといない。