「……っ」
狼くんが何かを堪えるように眉を寄せる。
それから、ぎろりと私を睨みつけた。
「それも全部、熱のせい?」
「っ、ちが……」
「熱のせいだから、絶対」
ちがう。
ちがう、けれど……熱のせいにして甘えているのはほんとう。
狼くんがこうして、呼べば戻ってきてくれるところにいてくれるのなら、風邪をひくのも悪くないなって思っちゃっているのも、ほんとうだ。
「っ、狼くん……」
おねがい、と言おうとしたけれど遮られてしまう。
「無理、さすがに」
う、と言葉につまる。
そうだよね……と肩を落とす、と。
「これで我慢して」
ぎゅっと。
狼くんの手のひらが私の手のひらを包みこむ。
期待した “ぎゅー” とは程遠いけれど、手を握ってくれた。
不器用なその行為、そこから伝わってくる体温が体をあっためていく。それは、心地よい眠りを引き連れてきて。
「……おやすみ、ひな」
意識を手放す直前、狼くんの甘やかすような声を聞いたような気がした。