「最低、ですよ……」



平手打ちしたまま、空中をさまよっていた手を、だらりと力なく下ろす。

その間も狼くんは顔色ひとつ変えなくて、悲しい、を通り越して胸がきゅっと詰まった。



あんなの、キスじゃない。
ぜったい認めない。




キスの形をした口封じだ、黙らせるのにちょうどいい手段だっただけなんでしょう、狼くんにとっては。

それで、私を怯えさせて遠ざけられたらそれでラッキーだって、そういう算段なんでしょう。

そんなのあんまりだよ。




私、はじめて……だったのに。


狼くんの頬を叩いたその指先で、今度は自分の唇にそっと触れてみる。

まだ火照ったように熱くて、その場所に生々しく残る感触は拭いたくても拭えなかった。




ファーストキスがこんな形で失われてしまうなんて。



でもその相手が狼くんだったことが、嫌だとは思えなくて、こんな最低なことをされてまで嫌いになれなくて、それも含めて最低だって思った。