狼くん、ふれるなキケン!



夜の路地に、ふたり分の足音が響く。

こつこつとローファーのかかとの音、そんなに変わらないはずなのに、狼くんの立てる音のほうがずっと心地いい。好き。



それでも、少しすると沈黙に耐えきれなくなってしまって、口をひらいた。




「……あの、狼くん」

「……」

「なにか、ありましたか?」




だって、あまりにも空気が重苦しい。


今朝はこんなのじゃなかった……から、学校、もしくはそのあとでよっぽど悲しいこととか、つらいこととか、あったのかなって。

純粋に心配100パーセントだった。




「鈍感なくせして、へんなところで鋭いの、ほんと腹立つ」

「怒って、ますか……?」


「知らねーよ」

「気にいらないことがあるなら、聞かせてください、私になら何でも────」





あきれたような、というよりは、なにかをあきらめたようなため息が狼くんの口からこぼれ落ちていく。


しんどい、とまるでそんな独白のようだった。






「────こんな時間まで、八木と、楽しかった?」

「え……、あ、はいっ。びっくりしたんですよっ、おうちがすごく広くって大きくってきれいで……!」




家、と狼くんが呟いた。





「聞かなきゃよかった」

「……え」





こっちをいっさい向かなかった瞳が、きゅうに振り向く。

それで、睨みつける、私をまっすぐ。


苦しいって言いたげに狼くんの瞳は揺れていた。




「心配して損した。ひなといると────ほんと、最悪なことばっか」

「……っ」

「……ふつうに、目障り」




グサリと胸をわざと刺すような言葉を吐き捨てるくせに、まやくんから奪った手のひらを離してくれないなんて、アンバランス。



そのまま、家にたどりつくまで、狼くんとはひとことも言葉を交わすことはなかった。手のひらは不器用に重なったまま。