「っ、狼くん……!」
それは、たとえあたりが暗くてその姿が見えなかったとしても、ぜったいに間違えるはずのない声。
こんなところで遭遇すると思ってなかったから、弾んで浮ついた声で返事をしてしまった。
嬉しい、好き、だいすき、であたまのなかが埋めつくされていく。自覚したのはついさっきのことだというのに、もうあたまのなかではハートマークばかりがふわふわ浮いている。
そんな私とは対極的に。
「……何してんの」
冷ややかな声、威圧的な眼光。
「なにって、」
「うるさい」
「……っ」
ぴしゃりと遮られて、目を見開いた。
今、少しも言葉を待ってくれなかった。
怒って、る……?
「余裕ないねー、藤川狼」
「……」
「そんなんじゃ、ひなちゃんに愛想つかされると思うけどー」
まやくんが煽るように話しかける。
ほんとうに、あの泣き虫まやくんとは別人みたい。
「ま、そっちのがおれは好都合」
見せつけるみたいに、繋がったままの手を持ちあげたまやくんは、まるで王子さまがするように。
ちゅ、と私のゆびさきににふれるだけのキスを落とした。
「……っ、まやくん何してっ」
「おれは、本気だから」
珍しい。
いつものらりくらり、当たり障りなく軽薄な笑みを浮かべるばかりのまやくんが、狼くんを鋭く見据えている。
狼くんはその言葉にいっそう眼光をするどくした。
そして。
「────俺だってずっと本気なんだよ」
その、あまりに低く唸るような声は、オオカミの咆哮のよう。



