「ん、ふ……」
苦しい、ただ、苦しい。
目の前にある壁のようななにかを、とんとんとグーで叩く。
生理的に涙が滲んで、それで、瞑っていた目をそうっと開けた、ら。
「っ!?」
あろうことか、狼くんのどアップ。
切れ長の瞳と、今までのどのときよりも至近距離で目が合った。
慄いて、それから────待って。
待ってよ、どういうこと?
唇がなにかに塞がれていて、息が吸えなくてくるしい。
目を開けたら狼くんが目の前にいて、そう、私が先程までとんとんと叩いていたのは狼くんの胸板だった……とここまでは理解した、けれど、つまり?
「……!」
つまり。
今、私の唇をぴったり塞いでいる、生暖かいその正体は。
理解する、たぶん理解した。
だけど、なんでこんなことになってるのかがわからない、こんがらがる、頭がパンクしてしまいそう。
ただでさえ酸欠寸前なのに、なんてそこまで考えたところで。
「っ、ぷは……っ」
きゅうに呼吸が楽になる。
それで解放されたんだとわかった。
狼くんが、触れ合わせていた唇を離した瞬間、ちゅうっ、という思わず耳を塞ぎたくなるような生々しい音が響いて、それでようやく遅れて実感が湧いてくる。



