目を逸らしたきり、狼くんはこっちを向いてすらくれない。
寂しい……と、それだけじゃない、胸の奥がきゅっと詰まる感覚。
こっちを向いてほしい、とただその欲のままに、手を伸ばして狼くんの服の袖を掴む。手繰り寄せるように、つん、と引いて。
「あの、狼くん」
「……」
「狼くん、こっち見てくださ────っ、んむ……っ!?」
こっちを見て。
その想いが届いたのか────いや、これは、違う。ぜんぜん、そうじゃない。
くるりと突然、勢いよく振り向いた狼くん。
その行為に喜んだのは、ほんの一瞬だった。獲物に狙いを定めるような要領で目をするどく細めた狼くんは、そのまま。
捕食したの、私を。
「……っん、ぅ」
ぜんぜん、状況が理解できない、頭が追いつかない。
ただ、きゅうに息が苦しくなって────唇が塞がれて、塞がれて、それで。
それで、私の唇にふれた、その正体を悟ったのは、本格的に酸素が足りなくなってからだった。



