「ひなちゃんに関しては、狡猾なケモノだよ、アイツ」
「……」
「おれが知る限り、ずっとね」
ずっと、って。
目を細めるまやくんに尋ねてみる。
「まやくんは、小学校にあがってからも狼くんと話したりしてたんですか?」
私が遠くの街に引っ越したあとの話。
「まさか」
まやくんは、考えるまでもなくきっぱりと否定した。
表情には「ありえない」と言いたげなのがありありと浮かんでいる。
「そんなに完全否定しなくてもっ」
「だって、藤川狼と関わるとか、ないね、絶対」
「どうしてそこまで……」
「単純に、アイツ怖いし」
まだそんなこと言うんだ……!
やっぱり意地悪なのはまやくんの方でまちがいない。
「狼くんがコワいのは顔だけですから! 肝に銘じておいてください! あとはとーっても優しいんです!!」
「はいはい」
まやくんはテキトーな生返事をして、興が冷めたように自分の席へと戻っていく。
ほんとうに、優しいんだよ。
ほんとうに優しい狼くんを知っているから、昔から誤解しないでほしいと思ってきたから、だから、今くやしいのと同じくらい期待してるの。
まだどこかに、私にもちゃんと優しかった狼くんがいるはずだって……。
台風のようなまやくんが去ったあと、道枝さんとお弁当を食べてお腹を満たしながらも、どうしたって頭の中を埋めつくしていくのは狼くんのことばかりだった。



