ただよいはじめる不穏な空気に、内心ハラハラしていると、まやくんがナイショ話するみたいに声をぐっとひそめて。
「もう一押ししとこっか」
「え……」
どういうこと、と目を見張る。
と、同時にまやくんが口を開いて。
「本気になっちゃうかもよ? ────ひなちゃん、かわいいしね」
わざと狼くんに聞かせたんだろうな、って声のボリュームとトーンだった。その意図はわからないけど……と思った次の瞬間、ふっと目の前が暗くなる。
「……っ!?」
「ひなちゃん、目閉じて」
「な……っ」
「いいから、はやく」
まやくんが体を傾けて、その顔を私の鼻先がふれるほどのキョリに近づけてくる。
まやくんはいつでもキョリが近いけれど、そのなかでもぶっちぎっていちばん。目を閉じて、なんて、このまま言いなりになって目を閉じたら……!
ぜったいにあぶない。
冗談でもだめ、ちゅーはぜったいだめ……!
慌てて逃げだそうとしたけれど、まやくんがそれをみすみすゆるすわけがない。時すでに遅し、私の体はまやくんに囚われたあとで。



