そこには、ほんとうに狼くんがいた。
移動教室なのか、廊下をこっちに向かって歩いている。
朝いちばんの不機嫌オーラがまだ残っているのも、しっかり狼くんで、なんだかそわそわしてしまう。
毎日家で顔を合わせていても、学校で会うのとはまたちょっとちがうもん。
新鮮で胸がきゅっとする。
それに、なんてタイムリーな……!
ちょうど狼くんのことを考えていたところで、そんなタイミングでじっさいの狼くんと直面するなんて、どうしたって恥ずかしくてあわあわしていると。
「ひなちゃんさあ、ほんとヘタ」
「……っ?」
狼くんのことで頭がいっぱいで、一瞬まやくんの存在を本気で忘れていた。
からびっくりして、慌てて取り繕ったけれど、まやくんは目ざとく。
「それ、隠してるつもりなんだろうけどさあ、顔にぜんぶ出てるから」
「……え」
「藤川狼、やっぱただの昔からの知り合いってだけじゃないよね」
う、と言葉につまる。
でもそれ以上何も言うわけにはいかなくて、ぐっと押し黙っていると。
「ひなちゃんが意地でも口割らないつもりなら、試してみよっか」



