- side ひな -






「狼くん、狼くん」




返事がかえってくるはずもなかった。
しゃこしゃこ、と歯みがきの音がふたり分響く洗面所にて。


並んで歯みがきをすることをゆるしてくれただけでも、ラッキーだと思ったほうがいいのかもしれない。




「狼くんの寝ぐせ、芸術的ですよね」




とはいえ、突っ込まずにはいられなかった。

昨日の朝も思ったんだけど、狼くんの寝起きの髪の毛、どうなってるのってくらいアーティスティックにぴょんぴょん跳ねている。


毛先があちこちに向いていて面白い。
どんな寝相なら、そんな風にクセづくんだろう……。



「前髪なんか、トサカみたいですよ」




オオカミなのに、ニワトリだ。


ふふ、と思わず笑うと、不服そうな狼くんの瞳が上からぎろっと落ちてきた。

そして口を開いたかと思えば。





「……ひなは鳥の巣」

「……!?」