気休め程度の応急処置を終えて、ひなの指先から手を離す。
ふと顔を上げると、思ったより距離が近くて息を呑んだ。
「……っ」
近い、近くて、甘い。
鼻腔をくすぐるそれに頭がまたぐらぐら、くらくらする。
ひとつ屋根の下、ボディーソープもシャンプーも同じものを使っているはずなのに、ひなの匂いはどこかしこも甘い。
ただよってくる香りが頭をおかしくする、駆け上がってくる衝動に顔を顰めた。
自分のことにはとことん無頓着。
危なっかしい。包丁で切った傷はそのまんまにするし、男がいるところで簡単に寝るし、こうやって惜しげもなく寝顔をさらす。
なのに、俺にはやたらと構ってくる。
ひなのそういうところが────めちゃくちゃムカつくんだよ。
気に食わない、なにもかも、ぜんぶ、滅茶苦茶にしてやりたくなる。