わざとひなから目を逸らした、のに。
無意識に戻ってきてしまった視線。
ふと、掛け布団の端からちょこんと飛び出たひなの手のひらに目がいく。
「……ばぁか」
ちいさな指先にいくつも刃物で切りつけたような傷跡を見つけて、何とも言えない気持ちになる。
慣れない料理なんかするからだ。
頑張ったりするからだ、そんなに器用じゃないくせして、俺なんかのために。
どうせ、うっかり包丁をすべらせてケガしたんだと思う。
ひながやらかす、その様子を思い浮かべるのは簡単なことだった。
絆創膏すら貼っていない、薬が塗られたような様子もない、痛々しげな傷。やっぱり、結局、見ないふりをして放っておくことのほうが難しい。
一回ひなの部屋を出て、救急箱を手に戻る。
せめてこれくらいは、と傷を覆うように絆創膏をぺたり、くるん、と巻きつけた。