- side 狼 -






「……は?」


思わずどす黒い声が口からこぼれ落ちる。

風呂からあがってリビングに戻ってくると、そこには目を疑うような光景が待っていた。


なに、まさか、寝てる?




「おい」




ぴくりとも動かない、ソファに横たわる体。
無防備に投げ出された四肢が、けっこう、目に毒だ。





「……ひな、ジャマなんだけど」




どうせ、ぜんぜん知らないんだと思う。

あまり好きじゃない、“ひな”って永遠に呼び慣れない名前で呼ぶこと。


知らないんだろう、その名前を口にする度、喉の奥のあたりがへんにねじれるような感覚を味わっていること。




「なあ、本気で寝てんの?」




返事はなかった。
また、へんな気分になる。



いつもは『狼くん狼くん!』ってなにが楽しいのか、毎日飽きもせずに連呼してくるくせに、今は大人しくすーすーと寝息を立てるだけ。



馬鹿なんじゃないか、と思った。

もう、手に負えないほどバカなんだと思う。





「……ほんっと、全然わかってねーよ」





こんなところで無防備にうっすいパジャマ一枚で眠りこけていられる、その無神経さにほとほと呆れる。