ほっとしたの。



新幹線でびゅーんと数時間、それからガタゴト電車に揺られること1時間とちょっと。

無事に到着したこの街は “あの頃” とそんなに変わっていなかった。

ここに来るまで期待8割、だけど不安もしっかり2割。



だって、もう10年も経つんだもん。

記憶もおぼろげな上に、もしも、ここが全く知らない景色に変わっていたらどうしよう、なんて思っていたから。



「……ふう」



少しの安心感に胸をなでおろして、息をつく。



よかった、なんとなく、わかる。

駅前は新しい建物がかなり増えていてびっくりしたけれど、そこから少し歩けば、見覚えがあるものもちらほら。



あの歩道橋、覚えてる。

向かいのあの公園は遊具まであの頃のままだし、そして、ええっと、たしかこの辺りに────



「……!」




レンガ造り、洋風のおしゃれな家。

幼い頃から、絵本に出てくるおうちみたいでかわいいなあと羨ましく思っていたの。


ここも、なにも、変わっていない。



表札の “藤川” の字に、思わずどきっと胸が音を立てたのは、緊張なのかはたまた────



なんて、考えたところで、道の向こうからこちらに近づいてくる人影ひとつ。