「やめて」

 カインは答えず、振り返ろうともしない。
 自分が女だとばれたら、これまでの苦労が全てがお終いだ。弟のディーンが回復するまで、まだ女に戻るわけにはいかない。

「お願い。やめて……」

 懇願にも近い泣き声にようやく振り向いたカインは、アイリスの顔を見てギョッとした顔をした。

「お前、なんで泣いてるんだよ。そんなに医者が嫌いなのか?」
「医者は嫌いです。でも、泣いてなどいません」
「嘘つけ。目に涙溜まってるし、鼻声になってる」

 はあっとため息をついたカインは、アイリスを見下ろす。

「じゃあ、せめて傷口を見せろ。これはどう見ても掠り傷じゃない」
「…………。わかりました」