叫ぶカインの制止を振り切り、アイリスは馬の腹を蹴る。にわかにスピードを上げた馬を、市民が慌てたように避けた。

「来るな!」

 アイリスが近付いていたことに気付いた男は(ふところ)から刃物を取り出すと、騎乗したままそれを突きつける。

「止めなさい! 窃盗に傷害罪が加わりますよ」
「うるせえ、来るなって言っているだろ!」

 逆上した男が刃物を大きく振ったのを見て、アイリスはチッと内心で舌打ちする。こんなところで刃物を振り回されては、一般市民が巻き添えになりかねない。
 アイリスは蔵の上に足を置くと、勢いよく自身の馬から相手の馬へと飛び移った。

「うわぁぁぁ!」